先日、民間企業で研究開発を長年にわたり経験し、その後、東京大学で教授をしている竹内健さんの「10年後、生き残る理系の条件」という本を読みました。
私も理系出身であるということで、将来生き残れるようになりたいという想いから自然とこの本に手が伸びたのでしょう。
ということで今回は、この本を読んで感じたことについて綴っていきます。
狭い組織内で頑張れば頑張るほど、世の中が見えにくくなる
ある組織の中で特定の技術について極めれば極めるほど、世の中が見えにくくなるということです。
この本では以下のようにまとめてありました。
現在の仕事に没頭しながらも、自分自身に対する客観的な視点を持つ。
「10年後、生き残る理系の条件」 竹内健 朝日新聞出版
決して視野が狭くなることを恐れて、頑張らないというわけではありません。
意識的に客観的な視点を取り入れることで、世の中と乖離しないように工夫するというものです。
私は学部、大学院と比較的厳しい研究室に所属していたので、
この部分にはとても共感を持つことができます。
私が研究室で感じた「狭い組織で頑張れば頑張るほど、世の中が見えにくくなる」ということに関しては以下のようなモノがあると感じました。
- コアタイムが長く自ずと研究に長く関わることで、どんどん視野が狭くなり、あまり考えずに博士課程へ進学する。
- 「研究こそが至高」という考えになる先生が少なからずいる。
- 化学系がそもそも一般的に研究室の自由度が低く、他の分野を見ると長すぎるコアタイムや短すぎる長期休みは一般的ではないということ。
サークルの友達と居酒屋に行って話をしたり、インターンとかで他大の人と触れ合ったりして、以下に化学系が特殊な(激務な)研究室であることを再確認したことが多くありました。
社会人になり、専門性を極めることで、どんどん視野が狭くなる可能性が高いので、これからも様々な友人たちと関わる機会を作って考えが偏らないように注意しないといけないと改めて感じました。
文系力を身に付ける
ここでいう文系力はいわゆる「作って終わり」でなく、
技術のみを考えればよい時代ではなく、開発した製品の後のことにも取り組むという、昔であれば文系出身の人が担当していたこともやるということです。
「深い技術の理解 + 広い視野での事業の俯瞰」を兼ね備えている人が必要であるということです。
文系力として具体的には以下のようなものです。
- 開発した製品を利用したサービスを開拓や開発したものを広めたり、市場の開拓を行う。
- 自分自身を一つの商品と見立て、アピールの一環としてマーケティングを行う。
- 自分の強みの抽象化を行い、細かい技術のことでなく広義の意味で考える。
- 専門分野がわからない人に対しても伝わるように技術について伝える。
技術のことを知っている人がやったほうが良いことも多く、
それをより多くの人に伝えるために技術を抽象化したりする必要があるということには納得です。
専門的なことをなるべくかみ砕いて説明したり、
自分自身を過小評価しないようにしっかり伝える伝え方や、製品を開発するだけでなく、
どう活かすかなどは今後しっかり学習していかないといけないと感じました。
就活では、技術面接などは違う分野の人や文系の人であってもわかるように説明することが求められているので、肌感覚として技術の伝え方については重要性を感じました。
自分の弱みを知って、強みに変える
これは、弱みを補うためにどのようなことをすればよいのかを考え、
取り組んでいるうちに気づいたら強みに変わっているという現象です。
この本では以下のような記述がありました。
天才エンジニアではない、狭い専門分野の技術だけでは負けてしまう、という劣等感があったからこそ、惜しげもなく転身できたのでしょう。
「10年後、生き残る理系の条件」 竹内健 朝日新聞出版
これに関しては、私も大学の研究室に居てとても感じた部分ではあります。
「この先生やこの人みたいにはなれない」と思ったことも多く、
このような人たちに勝つためには同じような方法では勝てないと漠然と思いました。
まだまだ専門知識や領域も狭くはありますが、自分の力に絶望するのではなく、
自分が戦えるやり方でやっていかないといけないという考えになりました。
一つの専門性を持ちつつ、他の分野での技術力の活かし方の考察
世間では、T型人材やΠ型人材など、専門性と広い視野を兼ね備えた人材が求められていると言われていると思いますが、まさにそのことです。
この本では以下のようにまとめてありました。
個々の技術は変わっていっても技術の全体を俯瞰して、その時代の自社の状況に応じて、適切に技術を選択していく能力は、時代によって変わらない普遍的なスキルと言えるでしょう。
「10年後、生き残る理系の条件」 竹内健 朝日新聞出版
企業などでもジョブローテーションを取り入れ、深く知った後に他のことも経験させ、
広い視野と技術を兼ね備えるという方法は理に適っていることであるのかもしれません。
大学でも同じで、やはりトレンドになっている分野についての研究を行っている研究室は、
公的資金が確保しやすいと感じます。
化学でいえば、計算化学や環境系の分野が該当します。
軸となる技術があることで、トレンドが変わっても対応できるようになり、
気づいたら他の分野も結構できる状態になっているようになるのが理想であると思います。
英語は理系の命綱
英語と技術があればいざというときにどうにかなるというものです。
これは直感的にわかりますね。
この本では以下のようにまとめてありました。
日本語しかできないというのは、流動性の低い日本の労働市場にロックインされてしまうこと。これは大きなリスクではないでしょうか。
「10年後、生き残る理系の条件」 竹内健 朝日新聞出版
確かにいつでも世界に出れる状態にあればかなり強いと思うので、
これからもしっかり英語だけはやっていこうと再確認することができました。
技術に関しては、国内でのシェアが低くなるものに関しては、
海外のどこかでシェアが拡大している場合も多いので、海外に目を向けることが可能な状態であれば、
他分野でなく同分野に絞っても生き残ることが可能ですね。
アウトプットは重要だが、インプットを怠らない
私は最近、英語や学業などインプットに時間をかけてアウトプットをあまりやってなく、
身に付かなかった経験があったのに、アウトプットに移行して短期間で身に付いたという経験があり、
アウトプット=最強
のような思考になっていました。
この本では以下のようにまとめてありました。
アメリカのMBAの入試で職務経験が求められるのは、既にインプットがある人だけしかアウトプットできるようにならない、ということではないでしょうか。
「10年後、生き残る理系の条件」 竹内健 朝日新聞出版
私は、アウトプットが最強であると思っていましたが、
冷静に考えると、学校教育などでは日常的にインプットする機会が多いので、
それらに類似したことをやったときにアウトプットの効果が出ていただけであると気づきました。
決して新しいことを始めるときにアウトプットを重視すればよいというわけではないということですね。
やはりインプットとアウトプットのバランスが重要であり、自分の習熟度に応じてインプットとアウトプットにかける時間の比率を変えていかなければならないと改めて感じました。
この本を読むことで、「アウトプット最強主義」の偏った考えを補正することができました。
まとめ
今回は、「10年後、生き残る理系の条件」という本を読んで感じたことについて綴っていきました。
理系であれば、将来も生き残りたいと思っている人は大半であると思いますし、
かなり面白い本であったので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。